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話題の料理人にインタビュー

話題の料理人にインタビュー

自分自身を料理で表現しながら、
世界で戦えるレストランを作る。

料理、器、空間などのトータルな表現で、フードロスや食のサステナビリティについてのメッセージを発信する『フロリレージュ』の川手寛康シェフにお聞きしました。

物心ついた時から
料理人として生きる決心を。

 実家が洋食屋で物心ついた頃から、料理人になると決めていました。迷ったり、辞めたいと思ったことは一度もありません。早く現場に入りたかったので、高校は食物調理科に進学しました。調理師免許が取れるので、専門学校に行く時間が短縮できます。

 フレンチを選んだのは、テレビ番組「料理の鉄人」で『ロアラブッシュ』の中嶋寿幸(なかじまとしゆき)シェフを観たことがきっかけ。すべての所作がスマートでカッコいいと思ったんです。卒業後は『Q.E.D.CLUB』に入社。大原正彦(おおはらまさひこ)シェフからは料理の基本はもとより、食材の無駄を出さないとか、お客さまを喜ばせるために料理を作るといった料理人としての根底を教えてもらいました。また、社会人としての責任や態度など、人間として大切なことも学びました。並行して休日には、他店での研修を重ねました。30軒以上は行っていると思います。その時お世話になったシェフたちには、その後もいろいろな場面で助けてもらい、力になってもらっています。

フロリレージュ 川手 寛康 シェフ

フロリレージュ
川手 寛康シェフ

かわて・ひろやす
1978年生まれ。駒場学園高等学校食物調理科を卒業後、東京・恵比寿の『Q.E.D.CLUB』、六本木の『ル・ブルギニオン』にてフレンチの根底を学ぶ。2006年に渡仏し、『ル・ジャルダン・デ・サンス』で修業。帰国し、白金台の『カンテサンス』(現在は北品川に移転)にて学んだ後、2009年、南青山に『フロリレージュ』を開店。新たなコンセプトのもと、2015年に神宮前に移転。

 大原シェフの下で修業した5年間で、基本的なことはすべてできるようになっていました。自信がついてきた頃、フランスに行きたい気持ちが強くなり、まずは日本でフランスに一番近い店を探して『ル・ブルギニオン』に移籍。菊地美升(きくちよしなる)シェフの下で、スーシェフとして働くことになりました。まだ23歳ですごいプレッシャーだったのですが、「やるしかない」と。調理場で起こるミスやトラブルはすべてスーシェフの責任になり、菊地シェフからは叱られてばかりでした。他人の失敗を負わなければならない苦しさと、多忙が重なって追い込まれた日々が続いた時、店を飛び出したこともあります。巻いていたタブリエを投げつけ「やってらんねぇ」って(笑)。その後、すぐに店に戻って「すみませんでした」とお詫びをすると、菊地シェフは何も言わずに「早く調理場に入れ」と普通に接してくれました。今振り返っても大変な経験だったと思いますが、その時があったからこそ今があると感謝しています。

フランスへ。そして最高峰の修業の場を経て、独立を決意。

 その後は、菊地シェフの紹介で、南仏の『ル・ジャルダン・デ・サンス』で1年間修業しました。外国人シェフと一緒に働き、彼らの柔軟さに影響を受けました。和食文化をさらりと取り入れ、しょうゆなどを使いつつもきちんとフレンチに仕上げるセンスなども勉強になりました。

 帰国してからは、『カンテサンス』で働きました。岸田周三(きしきしだしゅうぞう)シェフとは以前から知り合いで、渡仏する時に「帰ってきたら連絡するように」と言われていたんです。『カンテサンス』は、僕がいた2年10カ月ほどの間にミシュランの三ツ星を獲得し、ワールド50にも入りました。修業先として最高峰を経験し、これ以上はもう行くところがないし、自分ができることはすべてやりきったと感じて、さらに自分を高めていくためには、独立するしかないと思いました。正直なところ、岸田シェフに対する悔しさもありましたね。世界的に有名になった岸田シェフの仕事を近くで見て「自分もそうなりたい。頑張れば自分にもできるんじゃないか」と。知らなかった世界を見てしまうと、挑戦せずにはいられなくなるんです。

真っ白なところに自由に創造し、
イメージを完全に固めて形にしていく。

食から世界を変えていく、フードロスへの取り組み。

 自分の強みは、クラシックなフレンチのベースと、それを発展させた最先端のアプローチの両方を備えていること。『フロリレージュ』をオープンした時は、その特長を最大限に活かそうと考えました。目標は東京で一番の店になること。毎日満席にできれば成功だと考えていました。ありがたいことにオープンして3週間後には毎日満席を実現し、2カ月先まで予約が埋まる状態に。自分としては、意外と簡単に目標を達成できたという感覚でした。そんな中で、地方のシェフと交流する機会が増え、また新しい世界を知ることになります。地産地消や未来の子どもたちのために仕事をするシェフたちと「食から世界を変えていく大切さ」を語り合い、未来の食のために自分にできることを考えるように。フードロスの問題を自分なりに発信していこうと決めました。それが次の目標になったのです。

 フードロスの問題と共に、グローバルな食の流通過程で貧富の差による中間搾取があることも気になっています。僕は以前までチョコレートは使いませんでした。カカオのプランテーションなどで、子どもたちに強制労働を強いている問題があるからです。そんな時に、料理人の太田哲雄(おおたてつお)さんが「だからこそこのカカオを使ってもらえませんか?」と現れたんです。太田さんは三軒茶屋のイタリアン『ナティーボ』のシェフですが、カカオのフェアトレードにも取り組んでいます。そのカカオはペルーのアマゾンの村で大切に育てられたものだという話でした。使ってみるとストレートなおいしさを感じる上質なカカオだったんです。使わせて欲しいとお願いし、使うからには実際に栽培されている現場を見たいと頼んで、太田さんと一緒にペルーにも行きました。アマゾンの中に入り、カカオを栽培している村の子どもたちに食事を作って一緒に食べました。そうやって自分の目で生産現場を確かめた食材は、自信を持って使うことができます。

トータルで料理を表現し、
世界と戦えるレストランへ。

 『フロリレージュ』は2年前に現在の場所に移転し、コンセプトを大きく転換しました。フードロスへの取り組みを続けるうちに、地方のシェフや全国の生産者さんとのご縁が生まれ、表現したいテーマも変化してきたからです。まずは日本のすばらしさや国産の食材を全面に押し出し、季節感や生産者さんの想いをメッセージとして伝えていくことにしました。さらに端材や日本では好んで食されない経産牛を使い、フードロスへの取り組みを料理でも表現しています。だからコの字型のカウンターの中央に厨房を設け、料理人自らサービスし、食材や料理の説明をするスタイルになっています。料理だけでなく、空間やサービスも含めてトータルで表現することを目指しています。

 夜は12〜13品のコースをお出ししていますが、これも自分なりの新しいプラットフォームとして設計しました。順番が決まっている6~7皿という従来の型を壊していく試みです。小さな皿でたくさんの料理を提供するスタイルは、その日その時の自由な流れを表現するのに適しています。今までのフレンチは、例えると携帯電話のアプリを一生懸命作っている状態です。でも新しいものを表現するためには、携帯本体を作らなくてはいけません。一方で新しい型を作ってしまうと「フレンチではない」という評価が出てきます。だからイノベーション系(※)という呼ばれ方をするのです。

 伝えようとしているメッセージは複雑で難解かもしれません。なぜそのようなテーマを表現するかといえば、海外を意識するようになったから。世界で勝負できるレストランになるには、世界中どこでも評価される単純で分かりやすいものではなく、一部で熱狂的に評価される必要があると考えています。その変化により離れるお客さまがいることも理解しています。一方で海外のお客さまは徐々に増えていて、現在は3~4割が外国の方です。グルメサイトの評価は下がりましたが、僕自身は今とても充実していて、世界と戦うレストランの仲間入りができたとうれしく思っています。次のステップは台湾で支店をオープンすること。そして、いつかはシンガポールでも店を出したいと思っています。シンガポールには『アンドレ』というアジアナンバーワンのフレンチがあり、彼らと肩を並べる店を作れることを証明したいんです。

 店は自分自身が形になったようなものです。昔からわりと器用で、なんでもこなしてしまうけど、性格的に究極を追求するのは難しい。天才肌でもないし、優れたものは何も持っていません。だからトータルで表現することを大切にしています。料理、器、空間、スタッフなど、どんな要素が欠けても表現は成り立たない。真っ白なところに自由に創造し、イメージを完全に固めて、それを形にしていく。それが僕のスタイルです。
※現代的な調理法や科学的アプローチなどを取り入れ、進化し続ける料理を提供する店やシェフは、料理のジャンルを越えて「イノベーション系」と称されることもある。

直伝レシピ

経験と理論に基づく調理法と、革新的なアイデアで食の楽しさを引き出す川手シェフ。
家庭でもできる本格的なフレンチ3品のレシピを調理のコツと共に教えていただきました。

  • 牛ステーキとタルタル米のガレット
  • 椎茸サラダとチーズのスープ
  • チョコレート・キャラメル

シェフの試み食のサステナビリティ

川手シェフのフードロスの削減をはじめとした食のサステナビリティへの取り組みは、食材はもちろん器や箸などにも発展しています。

有田焼の産地と考える
陶土のロスへの取り組み。

 フードロスや食のサステナビリティへの取り組みとして、野菜の端材からスープを取ったり、経産牛を使って料理を提供しています。一般的に国産牛は2~3歳の去勢牛、未経産牛が流通していますが、背後には何度も出産した経産牛、乳用牛の雄牛なども隠れています。それらの牛肉にスポットを当て、価値を見出したいのです。経産牛は筋が多いとされていますが、薄くスライスしたり一晩乾燥させてハムのようにしたり、肉質に合わせて調理法を工夫すればおいしくいただけます。

「サステナビリティ・ディッシュ」という経産牛などを使った料理には、有田焼の器を使っています。通常の有田焼は真っ白な器を作るために、一級品の陶土しか使われず、採掘した石の大半が廃棄されています。そこで、2016年に有田で開催された「世界料理学会」で陶土のロスをなくすために、この土を使って器を作る提案を行いました。それがきっかけとなり生まれたのがこの器です。

 ちなみに『フロリレージュ』で使っている器が欠けたり割れたりした場合は、破損させたスタッフが金継ぎで修復するというのがルール。だから仕上がりにも、一つ一つ個性があります。

森林を守る国産の間伐材を
使ったオリジナルの箸。

 『フロリレージュ』では、箸を使っていただきたい場面も多いのですが、他国の環境破壊につながる輸入割箸を使うことには抵抗がありました。そこで、国産の間伐材を使ってオリジナルの割箸を作ることにしたんです。日本の国土の7割は森林で間伐が必要なのですが、外国産の木材の輸入が増えて価格が暴落してから、間伐ができずに放置されている森林が多くなっています。使い捨ての割箸はエコロジカルではないという考えは誤解です。国産の間伐材を使った割箸で食事をすることは、日本の森林を健全な状態に近づけることに繋がります。

私たちひとりひとりの食べ方、飲み方で地球は変わる!
お客さまへ食のサステナビリティの考え方を伝えるメッセージカード。
  • 写真1

    有田焼の窯元を視察し、作家さんからも話を聞いて、陶土の廃棄の状況などについても調査。

  • 写真2

    左・川手シェフの提案に応えた李荘窯の寺内信二(てらうちしんじ)さんを中心とする職人集団「ARITA PLUS」が制作する使われない陶土で作った皿。右・割れたり欠けたりした皿は金継ぎで修復。下・国産間伐材から作るオリジナルの割箸。

  • 写真3

    2016年に有田で開催された「世界料理学会」では、“2100年にはレストランがなくなる”というテーマで食材の廃棄や有田焼のサステナビリティについて発表。

これが好き!My favorite items

貝印の調理道具の中から、料理人のお気に入りの道具をご紹介します。
使い心地や魅力、おすすめのテクニックなど、プロならではの活用法をお伝えします。

イタリア製 ミンサー

 『フロリレージュ』の厨房では、ミンサーは必需品です。フードロスへの取り組みとして、肉や野菜の端材を細かくして使う時にも活躍します。家庭でミンサーを使うことは一般的ではないかもしれませんが、一台あるとグッと料理の幅を広げてくれる道具だと思います。牛ステーキとタルタル米のガレットのレシピで紹介したタルタルソースを作る時も、ミンサーを活用して好みの粗さに牛肉を挽くなど、新たなチャレンジを楽しんで欲しいです。

 「イタリア製ミンサー」はコンパクトなサイズですが、安定感があるところが気に入っています。細目と粗目の2枚のアタッチメントを使い分けながら、料理や好みにあったミンチを作ることができます。赤身と脂身の配分を変えることも自由自在。その日の気分によってヘルシーにしたり、ジューシーにしたりできます。魚をミンチにする時も同様に、粗さと配合をアレンジして楽しめます。さまざまな料理を何通りかのパターンで作ってみると、思わぬ発見があるかもしれません。野菜を細かくする時にも便利に使えます。特に、にんじんをミンサーで細かくして作るキャロット・ラぺは、程良く粒感が残っておすすめです。

こんな風に使っています

[キャロット・ラぺ]

細目のアタッチメントで
作るのがおすすめ

[キャロット・ラぺ]

ミンサーでカットした不揃いな断面にヴィネグレットソースが馴染んで絶品。ビーツなど他の野菜でもおいしくいただけます。

[オリジナルミンチ]

細目・粗目、両方の
アタッチメントを活用

[オリジナルミンチ]

ハンバーグやソーセージの合い挽き肉を用意するなら、牛肉を細目、豚肉を粗目にするなどのアレンジで食感の違いを楽しめます。

Florilège(フロリレージュ)

Florilège(フロリレージュ)

Florilège(フロリレージュ)

東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑 B1
営業時間:昼/12:00〜13:30(L.O.) 夜/18:30〜20:00(L.O.)
定休日:水曜日、他不定休
TEL:03-6440-0878

静かな路地の地下にある入口(写真上)を進むと、
洗練されたデザインの、コの字型カウンターが広がります(写真下)。

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